第3章 WOODYヨットの船体(ハル)

WOODYヨットは何故マホガニー材を使うのか。

私が自作で建造したヨット(横山晃設計のサバニ艇)はチークをほぼ100%使って建造しています。
横山晃氏の設計書にはマホガニー木材、タンギール木材、ラワン木材の指示がありました。
直接設計事務所に伺い、疑問点を訪ねました。
その時に「使用材料は何が1番良いんですか?」 と尋ねました。
横山晃氏から「チークが1番です」 の回答で、何も考えずに「じゃチークだ」といとも簡単に決めたのですが、当時の金額でチーク材料費だけで1,000万を越えるという恐ろしい結果で、当時のFRP製ヨットが同じ30フィートで800万ぐらいでしたから、結果完成したときには、材料費総額で2艇買える金額になっていました。
ただ金額だけで比較するとやはりチーク材の方が良いのか?、と言うことになるのですが、油が多くエポキシの接着には不向きで、又マホガニーと比較すると比重も重く、強くて軽い今のモノコック(卵の殻のような)で作るにはデメリットとして、この2点は大きかったと思います。
プロとしての1号艇(WOODY82)にはセールドライブの採用と、軽量で強靱なヨットを作るためにマホガニー材を使うことにしました。

マホガニーやチークはいつまでも手に入るのか?

現在チーク材はデッキや床板、内装材に使うだけで、総量は少なく、良く乾燥した良い物が探せばまだまだ需要分は確保できると思います。
マホガニー材はすでに国内には在庫として少なく、毎年2回材木商の方に依頼して、愛知県にマホガニー丸太の買い付けに行って貰っています。
購入したマホガニー材は現地にて荒製材し、大阪南港に運び、 1年間自然乾燥を行っています。
常時5m3から8m3を確保しています。
ただ最近は、中国へ向かう船で、なかなか日本には船が回ってこないらしく、現地でマホガニー材を確保しても運搬できないことも起きているようです。

1艇にどれだけのマホガニーを使うのか?

元のマホガニー丸太1本で5-7m3ぐらいですが、荒製材だけで1-2割が無くなります。
さらに実際に使うときには細かく製材しますから 、3-4割が実際に使われる量なのです。
WOODY ACTIVE 87 でバラストやエンジン等を除いた純粋にマホガニー材で1.0トンぐらいですから、比重0.45として2.2m3ですから元の丸太で言えば11m3となり、丸太1.5本が1艇で必要かと思います。
この量は非常に大きいらしく、現在突き板に使用する業者以外ではダントツに多い量を保管しているらしく、私が造船所としてマホガニーを主材料として使いだしてから、少なくとも関西圏のバランスを崩してしまったらしいです。

木製とFRP製との大きな違いは?

これは簡単には説明は出来ない部分なので、私が何故ヨット船体に木を使うのかは、改めて説明させていただきますが、ヨットは自然との接触です。
同じ自然との接触でも登山のように、我が身を守る物が自分自身ではなく、少なくともヨットと言う強靱な防護があります。
しかしその強靱な防護のヨットそのものに少しで不安が出れば、それはもう不安でしかなく、2度とそのヨットには乗れなくなります。
私も色々なヨットに乗ってきましたが、木造艇の安心感は言葉では表せないものがあります。

WOODYヨットのハルはストリッププランキングで建造されている

コールドモールド(部材を縦横斜めに張り合わせる)等他にも建造方法は有りますが、自作で建造した30Fがストリッププランキング(細い角材を積み重ねていき、アンカーファーストクギとエポキシ接着剤で建造する工法でWOODYヨットはSUSビスを使います)であったのも大きいと思いますが、トランサムだけは5層のコールドモールドで建造しました。
しかしこのトランサムをニス仕上げとしたのですが、どうしても部材の厚み部分の接着が切れると言う事が防ぐ事が出来ませんでした。
コールドモールドはダイニール加工の塗装仕上げの場合は良いのですが、ニスの場合は問題が大きかったのです。
以前はストリップも接着面が木材の乾燥が激しいと剥離、隙間が生じますが、建造の艇数が経験となり、この問題も今は克服しています。
現在は国内の造船メーカーの殆どがFRPヨットに成っていますが、木造ヨットの時代に一旦はこの接着面の剥離問題で、長期の保管には不向きと言われ、コールドモールドの塗装仕上げが殆どです。
この問題を克服した私のWOODYヨットは1/3がニス仕上げの建造で、逆にニス塗装仕上げのヨットは増える趣向にあり、今から建造する艇の1/2はニス仕上げです。
木造ヨットそのものが時代と共に忘れられていったと思われていますが、木造ヨットが建造されなくなって30年経過し、木造ヨットはそのまま止まってしまったと思われていますが、実は木の強度や保護をする技術は革新的に発展していたのです。
WOODYヨットを購入される方で、昔木造ヨットに乗っていた経験者の方は、オーナーさんは居られないのが現状です。
よほど維持管理に苦労されたのでしょう。
WOODの良さは100%木造ヨットとしての長所を生かして、欠点と考えられていた点を、完全に補ったのがWOODYヨットシリーズと考えます。

水船長と垂直ステム

ヨットは全長が長くても喫水全長が短いと、長さに比較して低速は遅くなってしまいます。
最近のレース艇は、よりステムが直立しスターンは平べったくなってきています。
これは垂直ステムにすることにより、全長に対しより長い水船長を確保出来るからで、スターンの平らは、よりスピードを稼ぐために半プレーニングさせるために取られたラインなのです。
WOODYヨットの基本ラインは横山晃氏のラインを使用して建造し、現在はACTIVEとなりより安定した性能を出すことに成功しました。
しかし極端に広く平らなスターンはヒールの限界を超えると当然転覆し、2度と起きあがることの無いヨットになってしまいます。
スピードだけを求めるレーサー艇と違い、より荒天時に強く、安全な航海が出来る純粋にヨットと呼べる船を目指しています。
垂直ステムは横山氏は早くから着目し、30年も40年も前からその設計をされていたのですから、本当にすごいと思います。
ただ単に垂直ステムは水船長を長く取るだけのメリットと後1点、前部に要らない加重を防ぐメリットが有るのです。
これが最も実はWOODYヨットの大きなメリットで、絶対にバウ沈を起こさない!ヨットとなっています。
WOODYヨットの発想は全く既存のヨットとは違う発想が多くあります。
船内のレイアウトも全く逆の発想で、従来のヨットは重たい物はセンターに集中させるため、水タンクや燃料タンクなどはキャビンの真ん中に集中させています。
この方がよりピッチング(前後の揺れ)が少ないからと言う発想でしたが、WOODYヨットは逆にバウとスターンに十分な浮力があるならば、水タンクは前に、燃料タンクは後ろに積み込み、最も物が積み込みやすいキャビン内には自由に物が積めるスペースを確保する。と言う発想で建造し、成功させています。
ヨットの設計はその殆どがよりスピードアップを追求し、安全面は2の次ぎの場合が殆どで、より安全に乗船者を目的地に運ぶ、本来のヨットはそう有るべきだったのが、レースが世界規模になり、早く着くことが1番の世界に成っているのではないでしょうか。

モノコックでフレームは必要か?

コールドモールドで建造された場合は、型用のフレームは作りますが、ハルが出来上がったときには取り外し、FRPヨットと同じようながらんどうの船体が出来ますが、ストリッププランキングで建造する場合は、フレーム積層そのものが1つの構造体にも成り、全くなくても強度には影響しませんが、大きな補強になっているのも事実です。
後1点、船内造作をする場合の基礎としてとても使い勝手が良いのです。
エポキシ接着剤だけを使う工法も有りますが、逆に私は1つの物だけを頼りにするのは、ある限界を超えたときに破損や破断につながる危険が大きいと考えます。
いくら温度と配合、湿度に万全を期していても、全く100%とは思えません。
仮に配合、気温、湿度を完全にコントロール出来る空調設備の整った所でしても、木の含水率、接着剤の使用量によっても硬化時間が変わってきます。
これらを100%完璧に行うことはまず不可能では無いかと考えます。
今年足立ヨット造船の工場には10Psのエアコンを設置し、集塵機(工業用空気清浄機)も常に3台が稼働していますが、それでも1年間を通して全く同じ条件は無理と思います。
均一に建造されているはずのFRPヨットの樹脂の不硬化や樹脂だれのヨットを何艇も見てきました。
完全に管理された工場生産のはずが、 実際にはそのような不調のヨットを作ってしまっている事実があるのです。
木造ヨットは100年持つと良く言われますが、基本的なメンテナンスを怠らなければ、旧来の建造方法でも100年以上現存しています。
エポキシ接着剤を100%使ってのヨットは、30年以上は経過していますが、100年には後3倍の経過年数がかかります。
WOODYヨットには全て保証をしています。 基本的には船体の保証は期限を定めていません。 極端に言えば「永久保証とも言える木造ヨット」でしょうか。
作ることも大好きですが、乗ることも大好きです。
乗ることの経験が又新しいアイデアとなり、進化するヨットとして反映できます。
しかし私の使命はまず今現存するWOODYヨットの維持でその次が新艇の建造です。
その大きな保証と維持に関し責任を負う使命がWOODYオーナーさんの方々から の絶対の信頼につながっていると思います。
長距離航海の夢はは私の中には存在しなくなりました。
行くのはWOODYヨットのオーナーさん達で、私の使命はそれに安心の二文字を常に持っていただくことだと思います。